絵の強さ | ◆今夜も枕投げ◆

絵の強さ

 群馬の方に竹久夢二の美術館があります。

 竹久夢二は明治から大正にかけて活躍した作家で。絵で有名でありながらも、作詞、詩歌、小説等、今で言うマルチクリエイターでした。この美術館は、大層な夢二マニアである館長が、方々から絵画や詩、小説、挿絵を描いた古雑誌を集めた物が展示されています。

 この美術館での秘蔵の掛け軸『黒船屋』が夢二の誕生日の前後二週間だけ公開されるというので見てきました。

 見るためには予約が必要で、住所を教えなければならず。一回の鑑賞人数に制限まで。なぜここまで?と思いはしました。しかし数々の手続きを踏み。美術館奥にある、厳重にロックされた扉の奥。床の間の飾られた掛け軸を見た時、なぜか展示されている館長の顔写真入り年表や、どう考えても趣味としか思えないガラス皿の展示館。を含めた細かい疑問点は軽く消し飛んで行きました。


 遠くから見ると、掛け軸に飾れた絵がぼんやりと〝ゆれて〟いました。淡い黄色の着物に水色の帯を締め、光を反射する程色が塗り込められた黒猫を抱えて、その名もずばり『黒船屋』と書かれた箱に腰掛ているという絵。全体的な色合が掛け軸の濃紺と合わさってか、実に幻想的な空気を醸し出していました。

 靴を脱ぎ床の間に上がり、近くで見ると、絵はまだ〝ゆれて〟いました。全体的に薄く緩い線、余りに全体と対照的にはっきりと描かれる黒猫。未だに続く絵の揺れは、黒猫を抱える女性の手が、猫をさすっているように見える程でした。


 僕がこの絵を見た印象は、第一印象から今まで変わらず『恐い』という印象です。こんなに作者のエネルギーが込められ、未だに満ち満ちて溢れている絵を見たのは正直言って初めてです。

 一年に二週間だけしか見れないというのも、解る気がしました。こんなのを年がら年中見てたら、倒れるかもしれません。

 

 それ程の作品です。ぜひ一度はご覧になってもよいかもしれません。